図書館からやっと届いた「警官の血」下巻、仕事もそっちのけで完読させていただきました。
谷中の天王寺五重塔炎上事件が起こったのは、上巻の前半。
その火事の最中に、そこから程近い芋坂跨線橋から飛び降り自殺したのは、炎上した五重塔に隣接する駐在所勤務の警察官だ。
彼は、そこまでにいたる話の主人公で、その死という、やや不思議な展開で始まった物語の主人公は、その息子、その孫と受け継がれてゆく。息子は、激しさを増す学生運動の潜伏捜査員を任じられて神経症を病みやがて天王寺駐在所に勤務し、父親の死の謎解きを遠因としてやがて殉職。そのまた息子は、同じ警察官の内偵捜査員とという複雑な任務を負うことになって...。
谷中には、まだ五重塔の跡地は、跡地のまま残っていて、
その隣には、もちろん現役の駐在所が存在する。
物語の根底には、警察官の死の謎が横たわり、だから最後まで天王寺駐在所を中心とした谷中界隈が細かく描かれることとなる。
戦後すぐから始まった、警察官の親子3代の物語のエンディングは現代。巨額の金が動いた経済事件犯人の逮捕直前で収束するが、全編通して、日本の闇の部分が描かれていて話は重く暗い。
一方、谷中という街とコミュニティの描き方が、まるで作家はこの街に住んでいるの?と思えるぐらいのリアリティー。
芋坂とか。
その先の芋坂跨線橋とか。
日暮里駅から谷中方面にのぼる御殿坂、左に曲がれば、初音通り、曲がってすぐの小さなアーケード初音小路のおくの小さな飲み屋。
初音湯という名の銭湯。
さんさき坂の谷中小学校。
諏訪神社。
これらの古い街とそこで生きる人々の生活の描写...それらが、物語の暗さの救いになっている感じ。そうじゃなければ、もしかすると、こんなに夢中で読まなかったかも。
作者は古い街の持つ浄化作用を知っているに違いない。
それは、闇に隠されたものを無視せず、しかし、むやみに暴かない、古い街の清浄な気の流れみたいなもの。