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ココロはいつも休暇中



月に1冊の明治大正の文豪作品

このくそ忙しい最中に、明治文豪の真打・夏目漱石なんかに手を出してしまったもんで、読みきるのに月をまたいでしまった。
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文豪が作り出す物語といったら、事件がない、描写が長い。
なのに飽きない、物語の先が早く読みたいと思わせるのが、漱石先生の凄さ。

一方読み手の私の日常生活。
生活のすべてがショートカットで繋がっているかのようで、無意味な場面展開でごまかしごまかしといった中身の無いドラマに似ている。1日、1週間があっと言うまに過ぎ去ってゆき、ハッ!と気づくともう夜で、「ああ、さっき起きたばっかりな気がするけれど....」という具合。

ともかく、その生活に無理矢理読書時間を押し込んで見るものの...物語のワンシーン、その描写の素晴らしさを味わう暇もなかったりして、続きを読もうとすると容易に物語に入っていけない。しかたないから、挟んだ栞から数ページ前に立ち戻り、反芻しながら物語世界に入ってゆく...ああ、進まない。
実際のところ、現代社会に明治大正の文豪世界って、実は、すごーく親和性がないですね。

文豪の街にせっかく住んでいるのだし、と始めたリベンジ読書は、谷崎潤一郎「細雪」→森鴎外「雁」→夏目漱石「それから」と読んできて、まだたった3冊読み終わったばかり。
でも、もうすっかり、明治・大正時代のゆっくりした時間感覚に憧れるばかりだ。
長い歴史を考えれば、つい最近の時代だとゆうのに、小説の中では時間はゆっくり動いていて話自体もさしたる進展はなし、派手な事件とか、急な場面展開がないというのが新鮮で、いつからわが国はこんなに無駄に忙しいの?と思うことしきり。だから、登場人物の心情とかしぐさとか、街とか部屋とか着物とか...文豪の手による「描写」は、ことさら贅沢な感じがして味わい深い。

資産家の父の脛をかじる「高等遊民」...つまり現代語で言うところのニートの主人公・代助(しかし、当時のそれは半端でなく裕福で、神楽坂に家を持ち、手伝いの婆さんと書生もいる)が、親の勧める資産家の娘との縁談を断り、友人の妻を選ぼうとして...というストーリー自体は有名だから言わずもがな。「読書とはストーリーを追うコト」としか思っていなかった高校生の私にその面白さはわかるはずも無く、この話は、多少は大人になった今のほうがしっくり楽しめる。
特に、私の場合は、季節の花で彩られた美しい描写がココロに残った。

物語のはじまりは春。
まどろみから目覚めた代助の枕元の畳の上、八重の椿が一輪落ちている。何かの伏線か?とも思わせる印象的なシーンを冒頭に置き、しかし、物語にそれに類する事件はなかなか起こらない。

起こらないうち、次が来て、「蟻の座敷へあがる時候になった」初夏。
代助は「大きな鉢へ水を張って、その中に真っ白な鈴蘭を茎ごと漬けた。むらがる細かい花が濃い模様の縁を隠した。鉢を動かすと花がこぼれる」。
今度は鈴蘭。
代助は、その鉢のそばに枕を置いて、花の香をかぎながらしばしうたた寝をする。

...そういえば、この主人公、春先から、徐々に暑くなる夏に向け、こうして寝てばっかりいてうらやましい。

物語では、この日、百合の花を土産に来客があり(その百合は、根元を濡れ藁で括られているとあって、現代からみたらそれがおしゃれだ)、その大ぶりの白い花が、この鈴蘭の群がる鉢に浮かべられる。というシーンに繋がって、美しさが増した。

百合の花は、主人公と彼が思慕する友人の妻を繋ぐ重要な小道具だから、他にもある。

代助は大きな白百合の花をたくさん買ってきて、「花は濡れたまま、二つの花瓶に分けて挿した。まだ余っているのを、この間の鉢(鈴蘭の鉢)に水を張っておいて、茎を短く切ってすぱすぱ放り込んだ。」
それから、その強い百合の香の中で、友人の妻へ手紙を書く。
「お話したいことがあるので来てください」と...。

物語は夏、大きな不安を秘めた余韻を残し、静かに終わる。

ああ、そういえば、話の根底を流れていたのは、ささやかな将来への不安だ...と、ここに書いていて気づいた。
主人公は、解消できない不安を抱え、ウロウロと街をよく歩いた。
住まいの牛込見附から、飯田町を経由して九段下の古本屋。
飯田町から小石川方面へ、大曲りを通って、伝通院、本郷へ...。

違った意味で、ささやかな不安を解消するかのように、同じ街を私も日々歩く。
...と、これも、読了してから気がついてみたり。
ああ、これは、紛れもない現代に繋がる話なのだと思い至ったりする。
by tao1007 | 2008-03-12 22:19 | 読書する
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