ココロはいつも休暇中



古い街の魔法

夏目漱石旧居跡とか、森鴎外記念館とか...。
そんなものが点在する古い街をうろうろする日々が続いていて、ふと、古典といわれる本を無性に読みたくなった。
大正・昭和あたりの日本文学は、へたすりゃ国語の教科書の意図不明な抜粋を読んだっきりのモノが多く、物語全編通しで読みきったものは数少ない。
さっそく近所の本郷図書館へ行けば、いままで気にも留めなかった全集コーナーは、いったいこんなにたくさん誰が読むの?と思うほどの充実ぶり。
さすが文豪の街だね。
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で、借りたのは、何故か谷崎潤一郎の「細雪」の巻。
舞台は大阪やん!何ボケかましてんねん...いやいや別に間違って借りたわけではありませんよ。
高校時代のリベンジのつもり。
あの頃は1行たりとも物語が頭の中に入ってこなかった...。今度はどうだろうと思ったもんで。

さて、大人になるというのは本当に良いものだ、「細雪」ってこんなに面白かったのか、と夢中になった。
この小説は、よく「絢爛豪華な..」とか解説されていた記憶があるが、私としては、昭和初期の大阪船場にかつて店を構えたこともある没落商家だが、今は蘆屋に住まうかろうじて中流家庭の蒔岡家...そのライフスタイルがなかなかに興味深かった。
戦後の経済成長ののちの一億層中流の時代と違って、この時代の「中流」は、女中さんを2人も雇って、時代が落ち着いたら娘をヨーロッパに留学させたいとか言っている相当にお金持ち。次女のお婿さんの稼ぎのみで、妻、娘、未婚の妹二人を養ったりしているが、それでも充分に余裕がありそうだ。しかし、上流階級のお話にありがちな格式ばった感じはなくて、なんとなく身近な感じ。
時代なりの世間体とか常識には、普通に囚われている「ふつう」の人々による物語であって、しかし、戦争前夜のその時期になんとなくのんきに暮らした数年のお話だ。軸になっているのは、なかなか嫁ぎ先が決まらない、三女の見合い&縁談の話...。今度は、そのエピソードがちょっともの珍しい。

物語には幾たびか春が巡ってきて、4月に家族で着飾って出かける蒔岡家のお花見のシーンが印象的だった。
まず、蘆屋の家を土曜の午後に出かけ、南禅寺の瓢亭で早めの夜食。都踊りを見物してのち祇園の夜桜を楽しむ。あくる日は嵯峨から嵐山をめぐり、夕暮れ時に市中にもどり平安神宮の桜を見る..のだという。
「もっとも名残惜しまれるたそがれのひとときを選んで、半日の行楽に草臥れた足をひきづりながらこの神苑の花の下をさまよう」と描かれていて、ひときわ寒い近頃だから、いっそう桜の季節が恋しくなった。

平安神宮の桜を、「このあたりの花をおいて、京洛の春を代表するものはない」と言い切っていたそのときは、1943年あたり。
現実は、戦争による厳しさを増すばかりのときに、のどかな時代を夢心地に書いていた谷崎潤一郎は、57歳。当然のごとく、「中央公論」にて連載が開始されたとたん、陸軍省から「時局に会わない」と掲載禁止の処分を受けた。それでも、作家は、密かに物語を書きつづけ、戦局悪化の1944年に自主出版。しかし、そのたった200部とかの私家版さえも出版さしとめになった。
しかし、さらに、何にめげることもなく書き続け、結局、戦後すぐ1946年6月に出版は果たされる。

軍事教練だ、空襲だと落ち着かない時代に友禅の着物で花見に興じる中流一家を描き。食べ物はどんどん枯渇して、配給となった生活の中で、「神戸オリエンタルホテルのグリルで食事」とかふつうに書き放ち、亡命ロシア人宅でのもてなしの様子をリアルに描写する。
作家とは、精神力に長けたひとのことを言うのだから当然ですね。と、口絵に添えられたモノクロ写真の谷崎老人が言っているようだ。

そんなこととは露知らず、時に床に寝転びながらのんきに読む現代の読者である私は、巻末の年表を読んでそのことを知り、恐れ入って、起き上がりひざを正してみたりした。
ひざを正してみたものの、なーんとなく思うのは、谷崎の伯父様、本当に、ただただ、しつこいしぶといひとだったんだね...というイメージ。不謹慎かしらね。でも、多くの賞もとり、自らの名を冠した賞も存在するが、少なくともこの「細雪」からは、偉人の匂いはしてこない。
ともかく「しぶとかった」のは、実際のことで、戦後も淡々と多作をし、源氏物語まで翻訳し、79歳まで現役で逝った。
私は、この作家のそんなところに興味を持ったのだ。


...さて、次こそは、谷中・本郷あたりが舞台の物語、森鴎外の「雁」の世界に飛んでみようか。
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by tao1007 | 2007-12-19 23:13 | 読書する
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