あまりにも面白く一挙に読んでしまった。
金融関係の実用書のようなものが著作に多い作家の初小説(らしい?)だけど、私は、近頃読んだどんな小説より夢中になって読み、希望に満ち溢れた読後感にも満足すること仕切りだ。小説としてこれほどの完成度は稀有なんではないか?とまで思ってしまったが、大げさだろうか?
「永遠の旅行者」とは、どの国の居住者にもならず、合法的にすべての納税義務から解放されたひとのことをさす。アマゾン・ドット・コムの出版社による紹介文には、「驚愕の金融情報小説」とあって、確かにどうすれば「永遠の旅行者」になれるのかとか、様々な納税逃れの方法なども書かれているが、それはひとつのディテールにすぎないし、金融情報小説ってジャンル立てはちょっと違うような気がする。どうだろうか...。もし身近に読了した人がいたら、読後感を話し合いたい感じすらする。こんな感情も珍しい。
ディテールの確かさであれば、シベリア抑留者の知られざる話や、ニューヨークのホームレス対策やハーレムの再開発の実績など、「お金」の話よりも気になるエピソードも多数。
でも、この小説の魅力は登場人物たち、特に主人公の元弁護士の恭一...が、ひとことでいうとカッコイイのだ。どの国にも居住地を持たず、アロハシャツ1枚でどこへでも出かける身軽さをもつ男性。お金にもモノにも振り回されない...もうこの存在こそがファンタジーでもある。
生き方の選択肢を複数持ち得る自由なひと...。今の時代を真に生きるためのヒントをこの小説は持っていると思う。
....それがこの物語のいちばん重要な価値だ。