なずな...ぺんぺん草は、雑草でございますというたたずまいで、どんどん増えて、寒い時期からどんな場所にも育つタフな草。
なのに、近づいてみれば、葉っぱは可愛いハートだし、その白い花だってちんまり可愛い。
...つまり、私の好きな草でして、それが、好きな作家の小説のタイトルになっている。
なになに?何の話?
「なずな」堀江敏幸 集英社
なずなは、まだ生まれてふた月しかたっていない女の子の名前。その彼女が、ある事情から、40代半ばの伯父さん(つまりなずなの父親の兄、ついでに言えば、独身、結婚経験なし)に引き取られ、その後の数ヶ月を過ごす話...なんでした。
といっても、そんな素敵な名前をつけられた女の子は、眠って、泣いて、ミルクを飲んで、出すことしか出来なくて、台詞も あーあーとか、うーうーとかで、主たる話は、引き取った伯父さんのなずなの育児・観察日記みたいなもの。
それだけなのに、なんとも、そのなずなちゃんの存在感。
赤ちゃんっていうのは、物語の中にいてすら、なんだかとっても大きな存在なんですねぇ。
そして、まさかそんな体験をするとは思っていなかったヒトの育児へのまなざしも興味深い。
あっ、もちろん、主人公の地方紙の新聞記者という仕事の話とか、ご近所に住む人々とのささやかで暖かな交流とかはありますが、それらすらも、なずなの存在あっての新しい展開が描かれているようにも見えて、そこが物語として新鮮なんである。
そして、リアルな言葉では描かれていないが、姪のなずなと離れがたくなってゆく主人公。
エンディングは、見送る日のことをさらっと描いて...なんだけど、なんだかちょっとやるせなくなる。
なずなだって、ずーっと赤ちゃんであるわけでもなくて、いつか大きく独り立ちしてゆくんだけど。その、かけがえの無い赤ん坊時代への別れと、親元に返すという別れがなんだかない交ぜになって、胸に迫る...みたいなことなのでしょうか。