「馬琴一家の江戸暮らし」高牧實 中公新書
幕末の下級武士による入出金記録を調査分析した研究書「武士の家計簿」が映画になって、それが案外面白かった。
ならば、滝沢馬琴と義理の娘・路の日記を元に描かれた江戸の暮らしも、映画かTVドラマにしたらどんなものか。
馬琴の日記も、まるで家計簿のように、出来事と金品の出入り、買ったものなどが詳細に記録されていたらしく、著者の高牧氏も余計な評論など加えずそれをまとめた。そこに描かれたことは、感情や考え方が一切排除されたまさに江戸の生活の記録で、だからこそ、かえって当時のライフスタイルをいきいきと感じることができる。
内容は、馬琴の家族の話から始まって、結婚、お産、離縁と家族の死別の様子。
滝沢馬琴は、長寿だったが、まず息子を早くに失い。次に妻、孫と先に逝ってしまう。自らも失明しながらも、南総里見八犬伝の後半は、義理の娘・路に口実筆記させて書き上げたと、ずいぶん波乱万丈、ハードな人生だった。
記録だけが律儀につづられれば、かえってその行間に書き手の悲しみとか人生とかが垣間見えてくるものだなとここで気づく。
本書の後半は、住居やペット、風呂の話、経済状態、近所付き合いの話と、江戸の市中に暮らす馬琴一家のあれこれが続き、最終章は、春、夏、秋、冬の歳時記と食べ物。
本当に出来事が淡々と並んでいるだけなのに、最初から最後まで飽きることなく読み進み、読了した暁には、なんだか、馬琴一家が身近な親戚のように感じられてくる不思議。
ああ、やっぱり、ぜったい映画化したら面白いだろうなぁ。
いやいや、毎週30分ぐらいの歴史小説ドラマだったらなかなかいい感じなんじゃないかなぁ...と、ついには妄想。
馬琴の代表作「南総里見八犬伝」は、現代にも通用する面白さゆえにTVの人形劇にも映画にもなって、それはそれでもちろん面白かった。しかし、彼の暮らしは、それと同じぐらい、いやもしかしたらそれを越えて興味深くドラマチックでもあります。