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ユーモアと知恵で生きた社会主義者の記録

ユーモアと知恵で生きた社会主義者の記録_f0108825_18563765.jpg「パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い」黒岩比佐子講談社

昨年、早世してしまったノンフェクション作家 黒岩比佐子さんの最後の作品をやっと読み終える。
幸徳秋水や大杉栄と時代を同じくした社会主義活動家・堺利彦の生涯の記録。
世間的には、あまり知られていない堺利彦について、これだけ詳細に資料を集め読み込んだ作家の粘りと緻密さにまず圧倒される。
そして、戦前の思想弾圧の時代の社会主義者の話であれば、確実に暗く辛い話になりそうなところをそうゆう風には描かない。弾圧も人権無視も冤罪による死刑ももちろんあって、それは歴史的事実だが、その中で、
社会主義者たちは「ユーモアとペン」の力で生き抜いた。
その様子が生き生きと描かれていて、黒岩さんはこれを書きたかったんだろうか、と思えば、450ページという長編を一文字も読み飛ばすことが出来ない。
だから、やっとの読了。しかし、とても面白かった。

特に、堺利彦が、偏見と弾圧により普通の社会に足場を置けない社会主義者たちのために作った会社「売文社」の活動の様子が面白く。それは、そのまま、編集プロダクション(しかも外国語の翻訳もこなし、卒業論文や借金の催促文まで作る。相当に優秀だ!)の創成期の話とも読める。
夏目漱石、森鴎外、尾崎紅葉、有島武郎、宮武外骨、松本清張などのそうそうたる文豪達との意外な接点もあり、特に「人生劇場」を書いた尾崎士郎がこの「売文社」の若き社員であって、彼の作品には彼の目から見た売文社の様子が描かれていることを知る。
次はこれもあれも読んでみなくちゃと、次なる興味にまで火をつける本。

こんな生き生きと面白い本を書き上げてすぐ、がんで逝ってしまったということが、読了してますます信じられなくなってくる。

ふと、生前古書の記録をテーマに書き、その後がんの闘病の様子などもつづられた黒岩さんのブログ「古書の森日記 by Hisako」のことを思い出し訪ねてみれば、友人のどなたかが後を次いでブログは続けられていた。
最後の書き込みは、読売文学賞の授賞式の話。そう、この大作は当然のように今年の読売文学賞を受賞したのだ。
授賞式に代理で出席されたでのお母様の挨拶で紹介されたのは、黒岩さんがデスク脇に置いていた自らへの「戒め」メモの話。
ブログには、その実物の写真がある。
「のぼせ上がるな!慢心するな!」
「読んでいただく、聴いていただく」
「オマエは何サマなのか!」
「謙虚に、慎重に、丁寧に」
「ガンで亡くなった人たちのことを思え」
「手抜きといいかげんはダメ」
「自分のゾーン、イメージトレーニング」
そして...。
「いいものを書くひけつ、近道をしないこと」

まったく面識のない彼女を、その晩年にブログと本を通して身近に感じるようになり、逝ってなお、見知らぬ私にまで強いメッセージを投げてくれるように思える。
そう思って、涙が出た。
by tao1007 | 2011-02-18 18:49 | 読書する
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by tao1007
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