「岸辺の旅」湯本香樹実 文芸春秋
次作が待ち遠しが、この作家は寡作だから、私は、いつも新しい物語をじっと待っている。
とても好きな作家。
処女作の「夏の庭」から、「ポプラの秋」、「春のオルガン」、そして芥川賞候補になった「西日の町」も、作家はずっと老人と子どものはかない出会いを描きつづけた。
人生の終焉が見える老人の孤独。
ひとり未来に漕ぎ出して行かなければならない子どもの不安。
そのふたつが、ゆっくりと寄り添ってゆく物語は、「死」と「生」の出会いの物語でもあって、悲しいけれど優しい。
本作は、そのいつもテーマをある夫婦の静かな旅の物語として描いた。
生きている妻とすでにこの世の者ではない夫。
登場人物がこう代わった瞬間に、物語は、より不安で、悲しく、切なく...なって、それをそっとひっそり息をつめるように読んだ。
そして、やるせないエンディング。
一瞬、息ができなくなるほど苦しい。
苦しいけれど、やはり優しい。
私と同世代のこの作家の描く世界は、いつも私が想定できる世界より懐が深く大きいのだ。