ココロはいつも休暇中



英子とベッキーさん。さよなら、またね。

f0108825_1354414.jpg「鷺と雪」北村薫 文藝春秋

「街の灯」、「瑠璃の天」と続いた、深窓の令嬢・花村英子と彼女のお抱え女性運転手「ベッキーさん」シリーズも、なんとこの「鷺と雪」でとうとう完結なんだという。
読む前から、何かそれが淋しく、3篇収録の1篇読んでは他の本へ、しばらくたって次の一篇...みたいな惜しみ惜しみ読書となったが、それも今日とうとう終わってしまった。

シリーズ一作の「街の灯」は、昭和7年の東京を描き、令嬢・英子は女学生となったばかりだったが、「鷺と雪」は、昭和10年の春の頃から翌11年の2月まで、女学校最終学年の日々の話となった。
そこは、皇族・華族の娘が学ぶ名門女学校だから、同級生のお嬢様方の中には、卒業と同時にご婚約が整う...などという方も居て、英子のココロはかすかにさざめく。
さらに上の学校に進学をする英子にとって、それは同級生たちとの別れでもあるのだから当然なのだ。が、そのココロのさざめきは、大正時代から続く短いのどかな時代が昭和に入って少しずつ気づかないような速度で、きな臭い方向へと動き始めたことゆえでもあるし、さらに、英子自身の成長とともに見えてきた、国の貧しさもかすかな理由となっているのかもしれない。

例えば、服部時計店とか教文館とか日本橋三越とかのモダンでハイソな上流階級のための「銀座」と並べて、物語には、浅草界隈ルンペンさんとか、下谷のあたりで拉致されかつ上げされる危険とか...、深層で守られて生きる令嬢・英子が「外へ」目を向けざるを得ないシーンも(たぶん)新たに加えられていた。

もちろん、三作目になっても、「ごきげんよう」「さようでございましょうか」などの美しいモノの言い方と身の処し方で彩られる健やかで美しい物語の雰囲気は健在。
そして、ヒロイン花村英子は、その凛とした作法に恥じない聡明なものの考え方で...。
そして、相当なる教養をもちながらも「お若い方を見守る仕事をさせていただきたい」と、お抱え運転手となった別宮みつ子・ベッキーさんの博学、頭脳明晰ぶりで対峙する、いつもささやかだけれど大きな謎解き。
けっして、殺人事件などは起こらないけれど、謎をとおして「時代の流れ」にしっかりとリンクしてゆく様が、いつものように清々しく、...しかし、その後の歴史を知る読者としては、少し悲しい。


さて、名門女学校の最高学年になった英子たちの修学旅行が興味深い。
その旅の行程をちょっとまとめとこうか。

旅たちは、11月25日早朝、東京駅から東海道線に乗り、名古屋で関西線にのりかえ、夕刻二見着・泊。
翌朝、朝靄のなか海岸へと向かい、二見ヶ浦。夫婦岩を手前に日の出を眺める。
そのまま。伊勢神宮参拝へ。
三日目は、伊勢から大阪、神戸、明石と移動し、京都着。
四日目は、奈良へ向かい、興福寺、春日大社と巡り、東大寺へ。
ここで鹿寄せを体験なさるのだ。品の良い制服に身を包んだお嬢様がたが、それぞれに鹿煎餅を持って鹿を待つ様子がほほえましい。
その後、宇治から京都へもどり、夜は新京極でお買い物。いったい何を買ったのか?その描写がないのがちょっと残念ですね(笑)。
五日目は、清水の舞台、御所の拝観。
紫宸殿から小御所、御学問所と拝し、清涼殿へゆけば、お嬢様の頭の中には、清少納言や紫式部や...。ああ、そうやって見学すべきだったのか...と。
そして、この日の最後は、鹿苑寺...金閣寺の見学。
六日目は、山陰線にのり、天橋立へ。
翌日、超特急燕号の乗って東京駅についたのは、12月1日の午後9時

日本を知る定番ような旅が興味深い、トータル7日の修学旅行。
最初、案外質素だ...と思ってみたが、それが昭和の初期の、しかもティーンエイジャーの少女たちの旅行と思えば、そうとうに豪華ですね。どなたも、この旅行を機会に小型のカメラを買って行くのも、時代に照らし合わせれば相当な贅沢。
それでも、旅先のここかしこで、きちんとポーズをとって写真を取り合う姿は非常にほほえましい感じです。

そして、あけて昭和11年2月...二ニ六事件が起ころうとするその日。
物語は、さまざまな余韻を残しつつも、突然のように終わってしまう。
確かに作家の立場にたってみれば、これ以上のエンディングはないだろうな。これからどんどん優雅さとは対角線上にあるような時代に入ってゆくし...と、一度は納得。
が、私としては、この聡明なる花村英子さんが、大人になった時代の物語を番外編で是非と思ってやまない。

英子さんに、そしてベッキーさんに、素敵な物語をありがとう。でも、いつかまた。
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by tao1007 | 2009-12-05 21:52 | 読書する
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