村上春樹さんの本は、一見読みやすい顔つきで読者を待ち構えている。
例えば、いつものように、洒落た表現の応酬は健在だし、ちりばめられたアイテムとかもどうも大変素敵なものに思えてしまう。
あとで冷静になってみれば、全然知らないマニアックな本や音楽や映画の話...さらにくわえて、今回などは、銃とか、護身術のマーシャルアーツとか、そんなものまで洒落たものに感じさせられてしまった。
さらに例えば、考えてみれば登場人物も平凡なひとというのがほぼ皆無。
殺し屋とか、作家の卵とか、ひと癖ある編集者に元学者。新興宗教関係者に謎の資産家...。これらを、なぜか普通にその辺に存在しているひとのように錯覚して読み進む。
油断するとどんどん先に進んで一気読み、これは表面だけ掬ったような読み方みたいになりがちだわ...と気づいて、1日に2章程度にしておこうと決めた。
しかし、これほど、身近になさそうなものだけの世界にいざなって、読者に息をつかせず読ませてしまう作家の体力。これっていったいどこから来るんだろうかね。
やはり、日々淡々と走りつづける。あのライフスタイルにあるのかしらん?などとまず思う。
そして、あえて私も淡々と味わうように読んでみて読了。
発売日のその日に、96万部も売れてしまった本だから、感想など容易に書けるものでもない。が、せっかくだから、再読する日の自分のために記録しておこうか...と。
村上さんの本は、いつもポップな世界を装っているようで、人間の中にいつも息を潜める「暴力」というもの、それを、なんとかあぶりだそうと試行錯誤する作家なのだ。と、気づきがあって、そのことが、この作品ではすごく鮮明にテーマ的に扱われていた。...と思った。
その意味では、さらに、なかなかに歯が立たないハードボイルドな小説で、500ページ上下巻の長編を丁寧に読んでさえも読者的な決着がつかめず、「さあ、話はこれからだ!」と思う頃に終わってしまった。...というのが正直なところ。
それは、「この世界に何故(いけないもの、悪であるはずの)暴力があり、それがなくならないか?」の答がなかなか導き出せないことを象徴しているようでもあるなぁ...などと思うことにする。
...うがちすぎか?まあいいか。
1Q84は、正確には、上下巻ではなく、BOOK1<4月~6月>とBOOK2<7月~9月>の二冊。
もしかすれば、BOOK3以降もこれから描かれるのでは?と、ちょっとだけ期待。
もっと、続きを読んでみたい...というのが、けっきょくいちばんの感想ということで、ああ、実際のところはどうなんでしょうか?