ココロはいつも休暇中



果てなく広がる海は

f0108825_19504972.jpg「猫を抱いて象と泳ぐ」先は、果てなく広がるチェスの海でした。
チェスは、白と黒のチェッカー模様の海に泳ぎいで、対戦相手と美しい詩を編んでゆく静謐なゲーム。
ああ、いままでチェスのことなんて考えたことはありませんでしたが、その奥に潜むものは深く興味深く。


例えば、あの美しく彫刻を施された駒の話...。
「キングは、村の長老。他の誰も知らない法則や伝承や教訓を知っていて、世の中を救う力を持っている。でも、長く生きた老人だからおまり大きく動けない。自分の升目の隣に一歩どうにかよろよろ移動できるだけなんだ。そして村の若者たちは協力し合って長老の知恵を守る。」などと語り説かれれば、ああなんて素敵な。

若者たち=ほかの駒たちも、それぞれに異なる役割と意味を持ち、「皆、互いを補い合いながら、自分に与えられた使命を果たす。」
クイーンは八方好きな方向へ。
馬の形をしたナイトは天空を飛ぶペガサスで、敵味方をくの字に越える。
十字を抱くビショップは、斜め横だけ。不自由な中に独特の自由を見いだす賢者のように。
頑丈そうな塔の形のルークは、縦横になら好きなだけ。
ポーンはただの丸いボールを頭に乗せて一歩一歩前進する。後戻りはしない。

それぞれの駒が、与えられた力をありのままに発揮された時、チェスの軌跡は、まるで、調和の取れた理想の美しい理想の世界そのものになって、棋譜という記録に残される。

それは、慎み深く賢く生きたひとびとの証のようではないか...。

「棋譜は、人間より長生きなんだ。これさえ記されていればどんなゲームもありありと再現され、チェス指しは、駒に託して自分の生きた証を残せるってわけだ」

チェスを知るものは、その棋譜に、生きる迷いや悲嘆や苦悩を見出すかもしれない。そして、そのネガティブなことが起こった意味を理解するための”声”。
それまでも聴くことができるのかもしれない。

例えば、「いいか。よく考えるんだ。諦めず、粘り強く、もう駄目だと思ったところから更に考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは負けるときだ。さあ、もう一度考え直してごらん」と言う風に。

物語は、未知の国から伝えられた寓話のような雰囲気をまとって読者をひきつけ、そうこうするうちチェスという知らなかった世界のその真の意味を淡々とあるがままに提示する。
小川洋子さんは、なんとすごいことをやってのける作家なのだろうか...と、ただ思う。

「博士の愛した数式」のときもそうだった。
この作家は、読者が...ことに、この作家を好む読者がまるで興味を持たないようなコトとかモノを取り出して、物語の中で愛情をもって生き生き生かす。そして、読者は、いつのまにか自分の人生にとってはどうでもよかったモノのとりこになっている。

読了後、ふらふらっと書店に入り文芸書のあたりを回遊。
この本は、もちろん三列ぐらいの面積で平積みしてあって、その本の山の頂には書店員のポップ。
大きな白い紙の上のほうに「最後の一行を読んだとき涙が溢れました。」とただあって、もうそのあとは何もいえませんと言う風に空白が残されていた。

「ああ、実は私もそうでした。」

ほんとに最後のたった一行。それのシンプルな一文に、登場人物たちと一緒に泳いできた物語のアレコレが美しく立ち上がり、不思議な涙を誘われました。

この小説は、チェスという奥深いもののために書かれ、そして、この最後の一文のために生まれたものなのかもしれません。
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by tao1007 | 2009-03-13 19:50 | 読書する
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