内澤旬子さんの新刊。
私が手にした書店では、「断捨離」や「片付け」系の棚前に平積みされておりました。
がっ、そんな実用書系の内容じゃあないのは百も承知。
この方、ウキペディアでの肩書はイラストルポライター(&装丁家、製本家)となっておりまして、彼女の著作を見た(読んだ)ことのない方のために申し上げれば、そのイラストは緻密にして繊細。
なのに、描く題材のせいなのか、奥まで分け入るような(豚を買って、食う...とか)取材スタイルのせいなのか、その絵には、そこはかとなく大胆さが醸し出され、見るたび読むたび、読者(=私)は「おおっ!」と呻いてのけぞるばかりなのであります。
数年前に大病をし、その経験を描いた「身体のいいなり」にもおおっ!と、のけぞりながらも、超面白く読んだモノですが、その病気を経て、彼女のエネルギーが「捨てる」に向かった模様です。
おおっ!
さて、それはどんな「捨」かと申しますと、服や家財道具の処分は、あたりまえ。
住いのほとんどを占めていた本(入手不可能でありそうな海外の古書多数)も、シゴトで描いたイラストも、大胆に捨て(というか、これらを即売する個展が開かれていたようです。うーん、知らなかった&行きたかったっ!)、そして、ついには、夫との関係も清算していたようです。
ああ、びっくり!
それほどの捨て気分になった重要な経緯として、中ほどから、豚を自ら育て、肉を食うをテーマとした「飼い喰い 三匹の豚とわたし」の裏話も語られていてそこもかなり面白く...。
しかし、あのような実用書の棚に並べられても、本書は、「捨てる」ためのノウハウになるか&役立つかは微妙です。
どうやったら捨てられる?...の部分を無理やり探し出そうとすれば、やはり、死を意識する病気をした...ということでしょうか。
実は、同じころに私も大病を経て、モノが大量にある場所に行くと気分が悪くなった経験があったなぁ...と思い出しました。
そして、同じように、不要なモノをせっせと捨てた。
「死ぬ」を意識⇒背負い、ぶら下げるモノをかなぐり捨てる⇒その事実が、プロセスが、大きな人生の折り返し点になる。
一応、実用書の棚前にあったんで無理やりノウハウ風のことを読み取れば、こんなことかなぁ。
...いや、無理っぽい(笑)。
さまざまな娯楽や消費やらで、いつもは眠らされておりますが、ヒトはもともと、死を意識してこそ生きられる生き物なのかもしれません。
読後つらつら考えてゆくうち、そんな読後感にたどり着きました。