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ココロはいつも休暇中



読書がもたらすささやかな贈り物

失業したオーリィ青年が引っ越してきたアパートの窓からは隣の教会の白い十字架が見えて、大家のマダムは昔のフランス映画に出てくる中庭と屋根裏の付いた古アパートのマダムみたいなんだとか...。
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」をどんどん読み進みたいのだが、また一気読みしてもったいなさを後悔するというのも惜しいので、「とにかくゆっくり読む」を心がける。
とはいえ、仕事の忙しさが佳境に入るとその街へ逃避したくもなる。
そんな一日を過ごす。

オーリィ青年の住む街をゆくひとは、「白いインクで数字の「3」がひとつ刷ってある」茶色の紙袋を持っている。
サンドイッチ屋の袋だ。その店の名は「トロワ」。
「なかなかおいしいわよ」とマダム。

これこれ、これだよ。
この話には、こんな日常生活をほんのり温かくするアイデアで満ちている。
たとえば、そんな袋でテイクアウトするのが似合う「なかなかおいしい」サンドイッチ屋さんがあったらいいと思い始めるとかね。
吉田篤弘氏の描き出す世界は、絶対的に「物語」的でいながら普通にどこかに存在しそうな感じ。小説の舞台である街を探したくなったりすることも多く、実際に今もこの「3」と書かれたサンドイッチの袋を作ってみたいなぁと考えている。
読み進めれば、その中に入っているはずの「おいしくて人気のサンドイッチ」も絶対どこかで売られているとかなり信じていたりする。

「そういえば!」と、この連載の番外編が載っていた「暮らしの手帖」を物入れから探し出し、ちょっとだけ読んでみる。(これも、単行本が出た後に...と思い。街のイラストを眺めるにとどめ読んでいなかった。)
早速、「作者も執筆中は毎日のようにこのふたつの町に通っていたのですが...」と書いてあるよ。そして、その街を再度ひそかに探索したりしている...。路面電車の走る街。古い名画座がある。同じ著者の「つむじ風食堂の夜」という小説は、オーリィ青年の住む街の隣街を舞台にした話だそうだ。
それがどこにあるかはもちろんあかされてないが、地図がある。実際にこの世に存在するのかだって謎だ。作者の頭の中にあるだけかもしれないし..。でも地図なんかがあって、ともかく、そこには、他の小説に登場した古道具屋や古本屋なんかもあったりする。もうどうにも小憎らしい感じなのだ。

吉田さんの描き出す物語すべてが何かどこかでひっそりと繋がっていて、どこか違う次元の世界にそれらが全部存在している感じ...。そして、その物語の街を「歩いている」(=読書している)と、小さいけれどとても大切なものをたくさん贈られているような気がしてくる。

生活を豊かにするアイデア...といったらいいのだろうか?そんな単純なものでもないんだけれど、でもそんな感じ。
by tao1007 | 2006-09-07 22:19 | 読書する
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カラダもココロも休暇中

by tao1007
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