「なんかそのままずーっと、読まないままのような気もするなぁ....と、ちょっと歪んだ気になり方をしていた作家」だったんですが、
あるときそのタイトルのインパクトにうたれまずエッセイから読み始めてしまった津村記久子というヒトの物語。
そのエッセイのゆるい雰囲気を纏いつつも、よくよくハマれば(なんか言い回しが変ですが...)かなり仔細で熱い感じが、もうわたしの好みだったんでして、結局、その最新作に手を出してしまった。
ああ、小説は、さらに面白いわぁ~!
舞台は、大阪のターミナル駅から徒歩10分の古い雑居ビル西棟。
だから『ウエストウイング』なのね。
といっても、廃止された貨物駅の下をくぐる長いトンネルを歩く以外にアクセス法がない...っていう、実はマイナーかつ不便なロケーション。
なにか起こりそうな気満々ではありますが、そうたいしたことは起こらない。
...いや、いろいろ起こったか?
ゲリラ豪雨でビルの関係者たちがしばし足止めをくったときの起こった様々な事件とか...たとえばそのトンネルが水没、トンネルの向こうとこっちで火急の受け渡し品がたくさんあって、にわか渡しが登場したり...した。
そういやぁ、ビルの解体騒ぎというのもあったし、ウイルス性の感染症に主人公たちが罹患⇒隔離とかっていうのもあった。
でも、なんか全体のトーンが淡々としすぎているせいか、そういや、事件満載だった物語がどうもゆる~く感じさせられてしまってましたね。
やっぱ不思議だわぁ...この作家さん。
さて、さらにフォーカスされた舞台としては、その古い雑居ビル・椿ビルディング西棟の物置場的なスペースがあてられまして、そこに、時々やってきては和む3人の主人公。
事務職OLのネゴロ
20代サラリーマンのフカボリ
そのビルの進学塾に通う落ちこぼれ小学生のヒロシ
この3人が、章が変わるたびに、かわるがわる主人公を張り、職場の些細だけどなんとかなって欲しい問題や、まだ考えたくないけど気になる自分の将来、勉強より創作活動を優先したいけど成績が....と、それぞれ思いわずらう。
読者は、ああこういうことって、誰にでもあるなぁと、ふとリアリティを感じて、のめりこむ。
しかし、物語の中では、彼らが、いつしか互いの顔も知らぬまま物々交換を始めたりして、ああ、ありそうでやっぱなさそうな、でも、こうゆうことってわが身にも起こったら面白いだろうなぁ...などと。
さて、はためにはゆるゆるしても見えるけど当人たちにとっては十分にしんどい毎日。そんな日々が、だんだん稀有な厄災に見舞われる日に発展し...。冷静に考えてみれば、ええーっ!となるはずのストーリーなんですが、なんかどこまで行っても、そんな全体としてはしんどい感じにならない不思議。
...ってのは、そんな事件に打ちひしがれるということもなく、さりとて雄雄しく立ち向かうというニュアンスも無い。
主人公たちが、日常と同じく淡々と最善を尽くそうとするからなんですね。
ああ、コレか。
この雰囲気が、私が、この作家の物語が好きと思う理由なのかもしれなくて、そして、最後はささやかなハッピーエンド。
「ささやか」とか「淡々と」とかで、十分面白く物語が連なってゆくというのが、この作家の才能なんだろうな...と、ちょっとだけ気づいたりする。