「だましゑ歌麿」高橋克彦 文春文庫
この本「春朗合わせ鏡」のシリーズ第一作。いや、今回は主人公が春朗(北斎)ではないので、姉妹作というのが正しいかしら。
ともかく、寛政時代あたりの浮世絵師、戯作者をとりまく江戸の物語の第一作。
初めて読んだのが3作目だったこともあって、やや不明点があったのを、これを読んでほぼ納得。
しかも、作者の高橋克彦さんは、浮世絵の造詣深く、美術館勤務の後、大学で美術史の教鞭をとりながらの研究者生活を経て、今まだ尚その存在が謎とされる写楽をモチーフにしたミステリー「写楽殺人事件」でデビューを飾るという経歴を持つ人。
主人公は、南町奉行所の同心にすえ、これは架空の人物ながら、浮世絵の深い知識をふんだんに使い、 歌麿、北斎とその版元主人である蔦屋重三郎に、火付け強盗改めの頭、鬼平こと長谷川平蔵まで、実在の人物を登場させ自在に操る。
これもミステリー仕立ての展開で、息もつかさぬ面白さ。
でもって、松平定信による恐怖政治にも近い倹約政策に翻弄される庶民生活史なるものまでも生き生きと描いた。
複線を深く、広くひろげて、これをどう収束させるのかとぎりぎり心配になるところを筆冴えてまとめたエンディング。私が江戸好きということを差し引いても面白すぎます。
これが残りあと一作かと思っていたら、なんと田沼意次の賄賂政治の時代にさかのぼって、さらに4作、5作も存在してた。こちらの主人公は、若き山東京伝と当時大御所の平賀源内。
うーん、しばらくは、江戸の浮世絵、洒落本の世界に嵌りまくりそうな勢いです。素敵!