この本。
「本は装丁も含めて本」という立場からすれば、かなりその辺りを粗雑に扱わざるおえない図書館の書棚。
函からは抜き取られ、表紙の紙にどんなに凝ろうとも、汚れ破損防止のビニールでぴったり覆われる。カバーをはずした本体表紙に工夫があってもそれは闇にふされます。
しかし、そんな中ですら、俄然異彩を放っておりました。
谷中の街を古くから見守る江戸千代紙の老舗「いせ辰」。その四代目広瀬辰五郎さんの著書「江戸絵噺いせ辰十二ヶ月」は、1906年生まれの四代目辰五郎の子ども時代から思春期までの東京と「いせ辰」の様子を描いたもの。
書き文字であっても軽妙な江戸弁が心地よく、読者としては、どこか手入れの行きとどいた座敷で、品の良いおじい様のひとり語りを聞かせていただいているような気にもなる。
挿入された資料写真...当時の寄席や歌舞伎のチラシ、版画、肉筆絵のコレクションをはじめとした「紙の資料」、玩具、人形、装束の写真など。それらも、語り手が、「あっそういえばこれこれ」とかおっしゃって、いつしか奥からとりだし、懐かしげに、少し自慢げに見せくださっているような臨場感を演出する。
さらに、口絵に描かれた「郷土玩具」が素晴らしく。
これは正月にちなんだ郷土玩具。
見知った玩具・縁起物は慕わしく、話にだけ聞いてその姿かたちを知らないものには「ああ、やっと出会えました」と感慨深く。もちろん知らなかった、知らないうちに消えてしまったものもある。
これが12か月分。著者の手によるものだそうですが、これらの絵、見て楽しく、資料としての価値も計り知れないと、読者は思う。
なもんで、見るとこ読むとこ多数で、あっちをめくったりこっちを見たり。
ついに見返しに「箱絵解説」があるのを発見!
ああ、やっぱり函入りだったのかぁ。箱絵は、江戸末期にもちいられた、「熨斗」の「のし尽くし」。小さく写真も載せられていますが、ああ本物を見たい。
こうゆう本は、ぜひ手元に置いておきたいと調べても、1978年初版で、もう絶版。
うーん、復刻してくれないか。
いや古書店を探すしかないか。
結局、図書館で函なしを何回も借りて、眺めては欲しい欲しいと、心はちぢに乱れたりします。