「真昼なのに昏い部屋」江國香織 講談社
わが谷中は、近頃、TVや映画のロケ地になったり、小説の舞台になったりとひそかに忙しい。
ふとなにげなく読み進んだ、江國香織さんの新作までもが、谷中の街を舞台に繰り広がっていて、軽い衝撃(笑)。
主人公のアメリカ人男性が住むのは、「くねくねした細い道-かつて川だったのです-の一画に建っている」とあるから、たぶんへび道のどこかのアパートで。
...と、地元民としては、もうそれだけでちょっとうれしい。
単純ですね。
そしてタイトルの「真昼なのに昏い部屋」というのが、そのアパートの彼の部屋を指すのだけれど、その清々しいほどものがない部屋も、この辺りの住まいとしてふさわしい感じ。
実を言えば、物語は、もう一人の主人公・坂の上の一軒家に住む人妻の美弥子さんとの恋の進展を軸に展開する。平たく言えば不倫話。
こうくると、一歩間違えば、ドロドロとした人間模様になりそうだけども、そうはならない。それが、この作家の持ち味というか個性というか...。
読中、読後の印象は、みずみずしく清々しく。
たぶん、この、アメリカ人の部屋の描写であったり、美弥子さんの丁寧な家事の様子だったりが、主人公たちに透明感とか清潔感を与えているせいなんだろな。
そして、ゆっくり時間が流れる谷中のおかげもあるんじゃないか。
地元民としては、週に3日しかあいてないベーグル屋という記述に代表される、住んでいなければピンとこない描写に出会ってちょっとうれしい。
ふと、江國さんは、ずいぶん谷中に詳しいけど...住んたことあるの?なんて思ったりもして。